大阪高等裁判所 昭和38年(ネ)517号 判決 1967年6月30日
控訴人 中西和夫
被控訴人 大阪国税局長
訴訟代理人 伴喬之輔 外三名
主文
一、本件控訴を棄却する。
二、控訴費用は控訴人の負担とする。
事 実 <省略>
理由
当裁判所もまた、控訴人の昭和二七年分の総所得金額は、原判決添付別表一、の収支計算書の「被告主張金額」欄記載のとおり、金六八一万五、〇八〇円(その内訳は、事業所得金額六六六万八〇円、給与所得金額一〇万五、〇〇〇円、農業所得金額五万円)であり、従つて、右金額の範囲内で控訴人の総所得金額を金二一七万九、五二七円と認定してなされた被控訴人の本件審査決定には何等違法の点はない、と判断するものであつて、その理由は、原判決三一枚目表三行目の「さらに」以下同末行までの部分を削除し、同裏一行目に「二〇%分」とあるのを「二%分」と訂正し、また、次のとおり付加するほか、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。
一、控訴人主張の石工事収入金算定法は、工事着手時もしくは時宜に応じ、工事代金の内金を着工資金として受け取つたものを、一応前受金に仕訳し、工事の完成度に応じ、完成部分に対応する金額を収入金に振り替える経理方法によるものであるが、ここにいう工事の完成度(工事進捗度)は、前受金に対応する石工事に対する検収時の石工事量(施工済の石、現場あるいは控訴人作業場における加工中の石、及び控訴人倉庫に格納された原石の合計)の割合をもつて算出するというのである。しかし、本件請負にかかる石工事のように、出来高払の特約が付され、工事出来高の引渡が検収による確認を経てなされる場合にあつては、その検収のときに、右工事出来高に対応する工事代金の収入が確定するのであるから、その確定金額がその確定された年度の収入金として計上されるべきものであり、従つて、収入金算定につき問題となるのは、検収によつて確定された工事出来高如何ということであつて、前受金の授受の有無、その多募如何というようなことは直接には関係がないのはもとより、控訴人の主張するような検収時における施行済の石、格納された原石の合計で表わされる石工事量も、それ自体直接の基準とはなり得ない。従つて、現実に受領した前受金を、これに対する現実の石工事量(検収によつて確認された工事出来高ではない。)の割合に応じて収入金に振り替えるという控訴人の前記収入金算定法が是認し得ないことは、前段引用にかかる原判決の説示するとおりであるといわなければならない。
二、控訴人は、被控訴人が控訴人の昭和二七年分の石工事収入金として計上する金額のうち、
(イ) 千代田銀行大阪支店石工事関係において、昭和二六年中に大林組から支払を受けた前受金六〇〇万円のうち、同年度における工事進捗度六〇%に相当する金三六〇万円、
(ロ) 山陰合同銀行石工事関係において、昭和二六年中に大林組から支払を受けた前受金一五〇万円のうち、同年度における工事進捗度九〇%に相当する金一三五万円
(ハ) 日本興業銀行石工事関係において、昭和二六年中に大林組から支払を受けた前受金二五〇万円のうち、同年度における工事進捗度四〇%に相当する金一〇〇万円
については、すでに控訴人において、昭和二六年分の収入金として同年分の所得金額に計上して申告し、被控訴人はこれが申告に基いて控訴人に対し同年分の課税をした旨を主張する。
<証拠省略>を総合すれば、控訴人の昭和二六年分所得税の修正認定申告(収入金額約二、三〇〇万円、所得金額約一七〇万円)に対し、所轄豊能税務署長は、控訴人備付の帳簿額が不備であつたため推計々算(一定期間の収入金額に対応する労務費の割合を計算し、その率を控訴人申出の年間労務費に適用して年間収入金額を算出し、これに所得標準率を乗じたものから特別経費を控除して所得金額を算定する方法)によつて、収入金額約一、九〇〇万円、所得金額約二五八万円と更正処分をしたこと、これに対し控訴人から再調査の請求がなされ、右請求は被控訴人に対する審査請求とみなされたのであるが、被控訴人において右請求を棄却し、原処分が確定したこと、右再調査の請求にあたり、控訴人は同年分の収入金額中に前記(イ)の金三六〇万円、(ロ)の金一三五万円、(ハ)の金一〇〇万円を計上していたのであるが、大阪国税局所属協議団は、得意先の反面調査の結果、右(ロ)の金一三五万円は同年分の収入金額に計上すべきものではないと認め、これを除外して控訴人の同年分の収入金額を金二、七一四万円余と認定し、更正処分で認定された収入金額約一、九〇〇万円を大幅に上廻ることとなるので、さきの更正処分を維持すべきものとし、この協議団の協議に基いて、前記審査請求が棄却されたものであること、かような事実が認められる。
右事実によれば、更正処分による収入金額及び所得金額の認定は、控訴人の申告額ないし帳簿によつて個々の収入金の適否を調査して算定されたものでなく、前記推計々算によつて算定されたものであるから、控訴人主張の右(イ)(ロ)(ハ)の金額が昭和二六年分の控訴人の収入金として計上されその課税の対象とされたものとは必ずしもいえない。のみならず、右推計々算による収入金額の算定の当否についての協議団の調査においては、(ロ)の金一三五万円は、同年分の収入金額計上にされるべきものでないとしてこれを除外したうえで、右推計々算の妥当性を確認したものであり、ただ、(イ)の金三六〇万円と(ハ)の金一〇〇万円については、一応同年分の収入金額に計上して右推計々算の妥当性を確認したものというほかはないが、これとても、かりに、協議団の認定した前記収入金額からこれを差し引いたとしても、なお右推計々算による収入金額を大幅に上廻ることになるから、これを収入金額に計上することによつてはじめて右推計々算の妥当性が確認されたという関係にはなく、いずれにせよ、右推計々算によつてなされた更正処分の妥当性には何等の影響がない。かように、前記(イ)、(ロ)、(ハ)の金額は控訴人の昭和二六年分の収入金額として同年分の課税の対象になつたものとはいえないから、被控訴人がこれを昭和二七年分の収入金額として計上したことをもつて、違法とすることはできない。
よつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきものであり、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 小石寿夫 宮崎福二 松田延雄)